2009年6月11日木曜日

複雑系2

「複雑系というと物理学だけの考え方かと思っていたのですが,人文科学系でも使うのですね!? エントロピ−と同じでしょうか.」というご質問がありましたので、第2弾です。



エントロピーは乱雑さ・無秩序さの指標というのは正しい???か


 熱力学的には温度の高いものと温度の低いものが接触して、温度が平均化(ぬるくなる)した時に、その過程の前後で増加するような状態量としてエントロピーを定義しています。数式で書けば ∫δQ/Tがエントロピーの定義です。ここにδQ は熱量の変化、T は絶対温度。 ですから上述の二つの物体の熱の移動を式で書くと、高い方の温度をTH 、低い方をTLとするとき、
∫δQ/TL-∫δQ/TH > 0
これがこの過程の前後のエントロピーの変化です。

第一項と第二項でδQが同じで、TH > TL なので必ず正です。

つまりエントロピーは増加しているということですね。

(数学的に厳密に言えば、元の温度Tも変化するのですが、

δが十分に小さいとして考える必要がありますが・・・。)


ということで、オリジナルの熱力学的エントロピーは乱雑さ・無秩序という概念直接ではないですね。それより「平均化する」「均一化する」「だんだんばらばらに散らばってゆく」(ここがすこし乱雑さ・無秩序につながりそうですが)とでも言えばよいのでしょうか。しかし、その本質を日常用語で簡潔に表現するのは難しい。これを的確に表現できるのが、「エントロピー」という物理学で導入された指標と考えればよさそうです。

エントロピーにはシャノンの定義した情報理論のエントロピーというやつがあります。 こちらはある事象(信号と呼ぶほうがよいか?)の生起確率Pとした時、その事象の情報量を-logP(この場合の基底は2、つまりこの値はビットになります)と定義して、情報量の期待値 -∑PlogPを情報論のエントロピーと定義しています。この定義だと、どの事象の生起確率も同じ場合に最大エントロピーとなるので、どの事象が発生するか確率的に同じである→つまりどれが起こるかわからない。つまり、無秩序である。という解釈ができますね!


実はシャノンの上記状態量が定義された時はまだ、「エントロピー」という名称はついていなかったが、友人のフォン・ノイマンが「(熱)統計力学のエントロピーに似ていることを指摘し「(熱)統計エントロピーが何なのかを理解してる人は少ないから議論になったときに君が有利であろう」と語ったことを受けて、シャノンはエントロピーと名付けた」とか・・・


ちなみに、統計力学はやっていないので上の2つほどに直観的に理解できませんが、インターネット上の情報によれば「ボルツマンの統計力学では、巨視的状態のもとで、とりえる微視的な状態の数をWとすると、系のエントロピーSは、S=klogWで定義される。kをボルツマン定数という。つまりエントロピーは微視的にとれる状態の関数としてしめされる。」だそうです。直観的にわからないのはWです。ボルツマン定数は温度とエネルギーの変換定数ですよね。ウィーンにあるボルツマンの墓碑にはこの式がかかれているそうな!
とここまでで、エントロピーについては終わりです。複雑系にかんして「エントロピーと同じ?」は「そうじゃないみたい」というのが現状の回答です。

エントロピーが最初に言ったような、コンテキストで使われるのと同じような使われ方で「同じ」

という問いかけなら「yes」ですね。


でも、複雑系の中でのエントロピーの議論はきっとあるでしょうね。



複雑系ですね・・・。

構成要素の複数/単一振る舞いの不確定/確定
は別もので、4つの組み合わせがありますね。

複数・確定、単一・確定(複雑系でない)

複数・不確定、単一・不確定(複雑系と呼ぶ範囲)

複雑系の最大の特徴は、「予測不可能(系の振る舞いが不確定)」というところですよね。


ではなぜか?

 それは対象が非線形だから

 それは対象が複数の要素の相互作用を伴うから

 それは対象が決定論的な規則に従っているにも関わらず予測不可能な不規則なふるまい

  (ランダムではない)等々

 あるインターネット上の説明(著者は人工生命の研究者のようです)を引用します。「物理学史上最も重要な発見の1つである気体の分子運動論は「部分を足していけば全体を表すことができる」という実に簡潔で普遍的な経験則を我々に与えることになりました。



 しかし、ある系が複雑系であるということは、「全体的な現象を観察・分析することにより部分的な現象に分け、それぞれの部分現象を微視的な物理的相互作用によってモデリングを行う」という従来の方法によって理解することが困難であることを意味しています。複雑系という研究分野は通常の研究分野とは少し違う面があります。複雑系とは、上記にように、非常に簡便に言えば、「微視的相互作用から明確に帰結できないような巨視的現象」を見せる系です。

 よって複雑系とは単に抽象的なものを指しているだけで、「私は複雑系の研究をしています。」と誰かにいわれても、「私は微分方程式の応用を研究しています。」と言われるのと同じように、何をやっているのか皆目見当がつきません。

 実際には、ほとんどの研究者は複雑系に属するなんらかのインスタンスを研究しているわけです。以下にその例を少しだけあげました。無論、この他にもいろいろな研究対象があると思います。

政治経済システム

交通流

気象、

海洋

生態系

生命現象

人工知能

化学反応

ゲーム理論 」・・・・


どうですか?理解可能ですか?複雑系の火付け役となったサンタフェ研究所について書かれたCOMPLEXITY - The Emerging Science at the Edge of Order and Chaosの翻訳本が新潮文庫にありましたね

2 件のコメント:

  1. ごめんなさい.
    「エントロピ−とは同じ」という表現は不適切でした.

    エントロピ−は当初熱力学の概念だったのが,「不確実性・乱雑性の度合い」というように,広義の意味で使われるようになっています.これと同じように複雑系という概念も,広く社会学的に使われているのですかという意味でした.

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  2. yesの回答のほうですね。了解です。
    サンタフェ研究所は複雑系という言葉がこの使われ方を
    するようになって、研究基金が大変集めやすくなったそうです。数学分野ではさすがに厳格な定義がされているのでしょうが、その他の分野では厳格な定義はないというのが現状らしい
    です。

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